ピエール=オーギュスト・ルノワール 《横になった婦人》

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オーギュスト・ルノワール Pierre-Auguste Renoir
横になった婦人 Femme couchée
1912年 油彩・カンヴァス 24.5×33.3cm

あたたかな陽光のなか、赤い花の髪飾りをつけた女性が柔らかな草むらの上に寝そべっています。女性が着るワンピースの描写は、動きやすくゆったりとした布地の質感をとらえています。女性のかたわらには麦わら帽子と花の入ったバスケットが置かれ、田園の穏やかな雰囲気を伝えています。ここには、ルノワールが晩年を過ごした南仏の町カーニュの印象が、女性の衣装とともに鮮やかに描かれています。

 

 

アンリ・ルソー 《両親》

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アンリ・ルソー Henri Rousseau
両親 Les Parents
1909年頃 油彩・板 17.0×20.5cm

コートを着た画家の父と花を持つ母は、ルソーの両親がモデルとなっています。その表情は素朴ながら愛らしく、どこか親近感がわいてきます。

この油彩画はかつて画家・藤田嗣治が所蔵していました。藤田は晩年、パリ郊外の自宅に父の写真とともにこの作品を飾ったといいます。

本作は上原昭二氏より米寿を記念して、昨年12月に当館へ寄贈されました。この小さな油彩画には、画家やコレクター、さまざまな人々の両親への思いが込められているようです。

ポール・ゴーガン 《森の中、サン=クルー》

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ポール・ゴーガン Paul Gauguin
森の中、サン=クルー Dans la forêt, Saint-Cloud
1873年 油彩・カンヴァス(カルトン張り) 24.8×34.5cm

この作品はゴーガンがまだ株の仲買人をしていた頃の作品です。当時、ゴーガンは休日に知人を訪ねて、しばしばパリ近郊サン=クルーで制作しました。森の中で人々がピクニックする風景には、幸福な時間が流れているようです。

1883年、株価の暴落を機にゴーガンは画家の道を歩み始めました。生活に困窮した妻は、実家のコペンハーゲンに戻ります。ゴーガンは一人絵画を探究し、タヒチで最期を遂げました。この作品は、妻メットが生涯、大切にしていました。この穏やかな風景には、ゴーガンとの幸福な思い出に満ちていたのかもしれません。

 

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《鎌で刈る人(ミレーによる)》

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh
鎌で刈る人(ミレーによる)  Moissonneur à la faucille (D'après Millet)
1880年頃 鉛筆・水彩・紙 55.5×30.5cm

本作はゴッホが27歳で画家を目指しはじめた頃の貴重なデッサンです。ゴッホは、はじめ敬愛するミレーの版画「野良仕事」シリーズをたくさん模写しますが、それらのほとんどは後にゴッホ自ら破棄してしまいました。その中で唯一残っていたのがこのデッサンです。もとになった版画は、縦13センチほどの小さなものでした。ゴッホは、それを大きな紙に繊細な筆致で描き出しています。

ゴッホはわずか37歳で亡くなりました。その前年、ゴッホは同じ「鎌で刈る人」をテーマに、鮮やかな色彩、うねるようなタッチで油彩模写を描きました。ゴッホにとって、ミレーの版画は生涯を通じて芸術の源泉だったといえるでしょう。

 

 

ポール・シニャック 《アニエール、洗濯船》

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ポール・シニャック Paul Signac
アニエール、洗濯船 Asnières, bateau lavoir
1882年 油彩・カンヴァス 38.6×56.0cm

赤や黄色、青といった原色が筆跡を並べるように描かれています。筆触分割によって波打つ水面と光の反射があらわされた画面には、19歳の若きシニャックが受けた水辺の印象が鮮やかに甦ります。シニャックは16歳の時に見たモネの作品とその色彩に感銘を受け、彼の筆触分割や視覚混合といった技法を学びました。本作でも、川面を描くタッチなどにモネの影響が伺えます。

 

 

ポール・セザンヌ 《ウルビノ壺のある静物》

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ポール・セザンヌ Paul Cézanne
ウルビノ壺のある静物 Nature morte au vase dit d'Urbino
1872-73年 油彩・カンヴァス 45.0×55.0cm

布の上に置かれた果物とウルビノ壺が明るい色彩で描かれています。それまで暗い色調で描いていたセザンヌはこの頃ピサロと出会い、ともに制作しました。年長のピサロに「三原色とその混色だけで描きなさい」と助言されたセザンヌは、その傍らで制作する中で次第に明るい色彩による画風へと展開していきました。

この作品はピサロとともにガシェ博士の家に滞在したときに描かれた作品です。果物や壺、布は、荒い筆跡の色彩であらわされています。壁に映る壺の影さえも平面的に描写され、画面全体が平らな色面で構成されています。セザンヌは同じモティーフを、別の角度からも描いています。そこでは壺や果物の影がはっきりとつけられ、より立体的な空間が暗示されています。この二作品からセザンヌはこの頃、光と色彩の効果を模索していたことがうかがわれます。

 

 

ピエール・ボナール 《雨降りのル・カネ風景》

ピエール・ボナール Pierre Bonnard
雨降りのル・カネ風景 Paysage du Cannet sous la pluie
1946年 油彩・カンヴァス 51.6×64.6cm

ボナールが晩年を過ごした南仏ル・カネの風景が広がっています。画面中央の人物は傘を差しているのでしょうか、滲むような色彩が雨中の光をあらわしているようです。

ボナールは手帳にデッサンとともに天候を書き留め、自宅のアトリエで油彩画に仕上げました。「天候の書き入れは、僕に光を思い出させてくれるものだ」と語っています。

 

 

アンリ・マティス 《エトルタ断崖》

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アンリ・マティス Henri Matisse
エトルタ断崖 Les falaises à Etretat
1920年 油彩・カンヴァス 38.0×46.3cm

ドーヴァー海峡に面したエトルタは、白亜の断崖が切り立つ小さな漁村です。村のはずれには波蝕によって生み出された「象の鼻」と呼ばれる断崖があり、ドラクロワやクールベ、コロー、モネなど多くの画家がモティーフとしてきました。マティスは1920年と21年の夏にこの地を訪れて、「象の鼻」を多くの作品に描きました。

空にはノルマンディーの低い雲が流れ、断崖の沖にはヨットが浮かぶ夏の情景が描き出されています。マティスはこの時期、明暗をあらわす灰色や茶色などの中間色を多用しました。それらと黒を併置することで、一見暗い色調の灰色や茶色は美しい輝きを帯び、色彩を引き立たせています。海の水面(みなも)は水色と黄土色、黒の線のみで表現されていますが、ノルマンディーの海がもつ千変万化するやわらかな色調を見事にあらわしています。

 

 

アンリ・マティス 《鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦》

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アンリ・マティス Henri Matisse
鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦 Nu au peignoir blanc debout devant la glace
1937年 油彩・カンヴァス 46.0×38.0cm

南仏ニースのアトリエが彩り豊かに描き出されています。白いガウンを着た女性は、1932年頃からマティスの制作助手やモデルを務めたロシア人リディア・デレクトルスカヤです。人体の陰影は紫や朱色であらわされ、色彩の中にもヴォリュームを感じさせます。女性が羽織ったガウンは、わずかに緑がかっていることで、赤が主調となる画面で白の印象がさらに際立っています。

女性を写し出す鏡は、画面の奥行複雑にして、空間を倒錯させています。また、鏡の脇に置かれたカンヴァスやイーゼル(カンヴァスを立てる道具)は、この作品を描く画家の存在を垣間見せ、幾重にも重なる不思議な空間を生み出しています。

1951年、戦後初めて日本で開催された「マチス展」において本作を見た安井曽太郎は、「愛らしい、樂しい、美しい小品。人物、鏡、格子模様の背景、のよき連絡」と評しています。

 

 

アンリ・マティス 《アネリーズの肖像》

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アンリ・マティス Henri Matisse
アネリーズの肖像 Portrait d'Annelies
1944年 コンテ・紙 52.0×39.5cm

ここに描かれた女性は当時モデルを務めたアネリーズ・ネルクです。彼女は柔和な容貌でありながら、その強い眼差しは内に秘めた豊かな精神の広がりを感じさせます。

マティスは肖像画の制作について、「作品の本質的表現はモデルの姿顔立ちの正確さにではなくて、全くと言っていいほどモデルを前にした芸術家の感情の投射に依存していると私は思う」と述べています。また、「表面は多少簡略に見えても、芸術家とそのモデルの内的関係の表現であるヴィジョンが現れてくる。制作中になされた細やかな観察をすべて含んだ素描からまるで池のなかの泡のように内部で発酵したものが湧き出してくるのである」とも語っています。